※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
ジェシー・ジェームズの暗殺
(The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford)
作品データ
2007年|アメリカ|西部劇/伝記ドラマ
監督:アンドリュー・ドミニク
出演:ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック、
サム・シェパード、メアリー=ルイーズ・パーカー ほか
これは“西部劇”の皮をかぶった終末映画
タイトルからして、もう結末は明かされている。
この映画は「何が起きるか」ではなく、
なぜ、そうなってしまったのかを延々と見せ続ける作品。
銃声よりも沈黙が多く、
疾走感よりも停滞感が支配している。
いわゆる痛快な西部劇を期待すると、
肩透かしどころか眠くなる人もいると思う。
でもこれは、
神話が終わっていく過程を観察する映画だ。
ジェシー・ジェームズという“伝説の残骸”
ジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)は、
すでに全盛期を過ぎたアウトロー。
彼は伝説として語られているが、
実像は
- 疑り深い
- 気分屋
- 突然、暴力的
仲間ですら信用していない。
かつては英雄だったかもしれないが、
今は「恐れられているだけの男」になっている。
このギャップが、
映画全体に不穏な空気を流している。
ロバート・フォードの“歪んだ憧れ”
物語の語り部に近い存在が、
ロバート・フォード(ケイシー・アフレック)
彼はジェシーに強烈な憧れを抱き、
一緒にいられるだけで舞い上がる。
でも同時に、
近づけば近づくほど、
伝説の裏側の“人間臭さ”を知ってしまう。
尊敬と失望、
憧れと恐怖が、
彼の中でぐちゃぐちゃに絡まる。
そして、
彼が欲しくなっていくのは、
ジェシー・ジェームズになること
ではなく
ジェシー・ジェームズを終わらせること
という、歪んだ自己実現。
友情でも裏切りでもない関係
この二人の関係は、
単純な裏切りでは説明できない。
- ジェシーは、
ロバートの危うさを感じ取っている - ロバートは、
ジェシーに見透かされている気がしている
互いに緊張し合い、
それでも離れられない。
映画の時間の多くは、
この張り詰めた日常を丁寧に映す。
だからこそ、
ラストの「暗殺」は唐突で、
でも避けられないものとして訪れる。
タイトルどおりの瞬間
ジェシーは、
自分が裏切られることを
どこかで分かっている。
それでも背中を向け、
銃を下ろし、
逃げようとしない。
ロバートは撃つ。
歴史は確定する。
でも映画は、
その瞬間をクライマックスとして扱わない。
むしろ本番はその後だ。
殺したあとに始まる地獄
ジェシーを殺したロバートは、
「英雄殺し」として有名になる。
でも人々が求めていたのは、
新しい英雄ではなかった。
- 臆病者
- 裏切り者
- 名声泥棒
レッテルだけが貼られていく。
ロバートは、
ジェシーの影から一生抜け出せない。
伝説を殺しても、
伝説の座は空かない。
この映画が描く“有名になる”という呪い
この映画の核心はここ。
有名になりたい
でも、有名になる方法は選べない
ロバートは、
確かに歴史に名を残した。
でもそれは、
自分が思い描いた形ではなかった。
ジェシーもまた、
死によって永遠の伝説になる。
生きている間より、
死んでからの方が輝くという皮肉。
美しすぎる、静かな破滅
『ジェシー・ジェームズの暗殺』は、
- 展開は遅い
- セリフは少ない
- 余白が多い
その代わり、
感情がじわじわ染み込んでくる。
これは西部劇でも、
犯罪映画でもなく、
「伝説と、それに憧れた人間の破滅の記録」
派手さはないけど、
観終わったあと、
ずっと頭のどこかに残り続ける。
静かに刺さるタイプの一本。

コメント