ナイブズ・アウト:グラス・オニオン

※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。




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ギリシャに集まったテクノロジー界の大富豪と癖の強い友人たち。そこに現れた世界的に有名な名探偵ブノワ・ブランが、彼らにまつわる謎の真相をひとつひとつ解き明かしていく。



ナイブズ・アウト:グラス・オニオン
Glass Onion: A Knives Out Mystery

作品データ
2022年|アメリカ|ミステリー・コメディ
監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、
ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン ほか


今回の舞台は「天才の島」

名探偵ブノワ・ブランのもとに届く、
奇妙な木箱の招待状。

招かれたのは、
IT界のカリスマで大富豪のマイルズ・ブロンが所有する
ギリシャの孤島。

集められたのは、
かつて彼と成功を分かち合った仲間たち。
政治家、起業家、科学者、インフルエンサー。

表向きは、
「殺人ミステリー・ゲーム」を楽しむ週末。
だが当然、
本物の事件が起きる。


タイトルが示す“ガラスの玉ねぎ”

「グラス・オニオン」とは、
透明で、何層にも重なっているが、
中身は意外と単純な構造のもの。

この映画は、
最初から観客にこう囁いている。

難しそうに見えるが、
実はすごく単純だぞ

ただし問題は、
誰もその単純さを信じたがらないこと。


大金持ちたちの「共犯関係」

島に集まった面々は、
全員どこか胡散臭い。

彼らはマイルズに依存し、
同時に彼を軽蔑している。

  • 自分で考えているつもりで、考えていない
  • 正義を語りながら、保身しかしない
  • 天才を信仰し、その影に隠れて成功してきた

彼らは被害者であり、
同時に共犯者だ。

この関係性こそが、
物語の本当の土台になっている。


ブノワ・ブランという「違和感の探知機」

ブノワ・ブランは、
天才探偵だが、
万能ではない。

彼がやるのは、
トリックを暴くことよりも、
違和感を言語化すること

「それは複雑すぎないか?」
「わざわざ回りくどくしていないか?」

彼は、
難解な説明を疑い、
単純な可能性を最後まで捨てない。


天才とは何か、という問い

マイルズ・ブロンは、
自分を「ビジョナリー」だと信じている。

だが映画は、
彼の言動を丁寧に積み重ねることで、
別の姿を浮かび上がらせる。

  • アイデアは他人のもの
  • 言葉は中身がない
  • 勢いと自信だけは本物

彼は天才ではない。
天才だと思われ続けてきただけ

そして周囲の人間は、
それに気づきながら、
利益のために目をつぶってきた。


物語が“ひっくり返る”中盤

中盤、
映画は大胆に構造を切り替える。

それまで見てきた出来事が、
別の視点から再構成され、
「なぜそう見えたのか」が明かされる。

ここで重要なのは、
どんでん返しそのものではない。

観客自身が、
“難しい話だと思い込んでいた”
という事実
だ。


クライマックスは知性ではなく「選択」

最終盤、
解決の鍵になるのは、
頭の良さでも、
複雑な推理でもない。

それは、
「壊すかどうか」という選択。

これまで守られてきたもの、
信じられてきた虚像、
都合のいい沈黙。

それらを壊す勇気があるかどうか。

この映画は、
謎解きの勝利よりも、
嘘の構造を終わらせる行為
クライマックスに据える。


この映画が笑える理由、怖い理由

『グラス・オニオン』は、
とても笑える。

登場人物たちは愚かで、
自意識過剰で、
どこか滑稽だ。

でも同時に、
その姿は現代社会の縮図でもある。

  • 権威を信じる空気
  • 複雑な話を好む知性信仰
  • 「賢そう」に見える人への盲従

だから笑ったあと、
少し居心地が悪くなる。


前作との違い

前作『ナイブズ・アウト』が
古典ミステリーへの愛だったとすれば、
本作は
現代への風刺に振り切っている。

密室よりもSNS、
名家よりもスタートアップ、
動機よりも構造。

ブノワ・ブランは同じでも、
解体される対象は完全に今だ。


ガラスの玉ねぎを剥いた、その先

すべてが終わったあと、
残るのは意外とシンプルな感覚。

  • 分かりにくくしているのは誰か
  • 得をしているのは誰か
  • なぜ自分は疑わなかったのか

『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』は、
難解な謎を楽しむ映画ではない。

「難解だと思い込む心」を
笑いながら解体する映画だ。

透明で、
中身は空っぽで、
でも割るまで分からない。

その“ガラスの玉ねぎ”は、
案外、
私たちのすぐそばにも転がっている。

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