レッド・ドラゴン

※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。




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レッド・ドラゴン
Red Dragon


作品データ

2002年|アメリカ|サイコスリラー・犯罪
監督:ブレット・ラトナー
出演:エドワード・ノートン、アンソニー・ホプキンス、
レイフ・ファインズ、エミリー・ワトソン ほか


これは「羊たちの沈黙」の前日譚

『レッド・ドラゴン』は、
ハンニバル・レクターという怪物が、
まだ“檻の外”にいた時代を描く物語。

舞台は、
『羊たちの沈黙』以前。
FBI捜査官ウィル・グレアムは、
異常犯罪者の思考を“追体験”する能力を持つプロファイラー。

その能力ゆえに、
彼はレクターと関わり、
そして人生を壊されている。

この映画は、
「天才殺人鬼 vs 捜査官」という構図でありながら、
実際には
“理解してしまう者”の苦しさを描いた作品だ。


犯罪者の頭の中に入るということ

ウィルの捜査方法は、
論理や証拠だけではない。

犯行現場に立ち、
犯人の動線、視線、感情を
自分の中で再生する。

それは能力というより、
自分を削る行為に近い。

彼は理解してしまう。
なぜ殺したのか、
どんな快楽があったのか。

その代償として、
彼は普通の生活から
どんどん遠ざかっていく。


“歯の妖精”フランシス・ダラハイド

連続殺人犯フランシス・ダラハイド。
彼は自らを
「レッド・ドラゴン」へ変貌しようとする男。

家族連続殺害という残虐な犯行の裏にあるのは、
支配欲と、歪んだ救済願望。

映画は彼を、
単なる怪物として描かない。

  • 身体的な劣等感
  • 社会からの孤立
  • 愛されたいという欲求

それらが、
暴力という形で噴き出している。

恐ろしいのは、
彼が「自分は進化している」と
本気で信じている点だ。


ハンニバル・レクターという絶対的異物

そして、
この物語の空気を一変させる存在が
ハンニバル・レクター。

彼はもう牢獄にいる。
だが、
精神的には誰よりも自由だ。

レクターは助言を与えるふりをしながら、
ウィルを揺さぶり、
ダラハイドを刺激し、
状況を面白がって操作する。

彼にとって、
人の生死も、捜査も、
すべては知的遊戯。

この映画では、
レクターは主役ではない。
それでも、
出てくるだけで物語の重力が変わる。


鏡合わせの三人

この映画の構造は、
ウィル、ダラハイド、レクターの
三角形でできている。

  • 理解してしまう捜査官
  • 変わろうとする殺人鬼
  • 変わらない完全体の怪物

ウィルが恐れているのは、
犯人ではなく、
自分も同じ場所に立ててしまうこと

だからこそ、
彼は何度も現場に戻り、
何度も心を壊しかける。


クライマックスと“救われなさ”

物語は、
ダラハイドとウィルの直接対峙へ向かう。

だが、
勝利や解決のカタルシスは薄い。

事件は終わる。
だが、
理解してしまった記憶は消えない。

ウィルは家族のもとへ戻ろうとするが、
そこには常に、
レクターの影が残る。


原作との関係と評価

原作はトマス・ハリスの小説
『レッド・ドラゴン』

1986年には
『マンハンター』として映画化されており、
本作はそのリメイクにあたる。

派手さや恐怖演出では
『羊たちの沈黙』に及ばないが、
人物関係を整理し、物語を分かりやすく提示した作品
として評価されることが多い。


この映画が描いている本当の恐怖

『レッド・ドラゴン』の怖さは、
猟奇殺人そのものではない。

人を理解しすぎること。
他人の闇に、
自分の輪郭が侵食されていくこと。

怪物を捕まえるために、
怪物に近づかなければならない世界。

それでも、
誰かがやらなければならない。

レッド・ドラゴンは、
正義の物語ではなく、
“境界線に立つ人間”の消耗を描いた映画。

観終わったあとに残るのは、
恐怖よりも、
静かな疲労感。

それが、この作品のいちばん正直な後味だ。

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