※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
ボーン・レガシー
(The Bourne Legacy)
作品データ
2012年|アメリカ|アクション・サスペンス
監督:トニー・ギルロイ
出演:ジェレミー・レナー、レイチェル・ワイズ、
エドワード・ノートン、ステイシー・キーチ ほか
ジェイソン・ボーンがいない「ボーン映画」
『ボーン・レガシー』は、
ジェイソン・ボーンが主役ではない。
にもかかわらず、
舞台は完全に「ボーン・ユニバース」の内部にある。
物語は
『ボーン・アルティメイタム』と同時進行。
ボーンがCIAを混乱に陥れている裏側で、
別の極秘計画が静かに“処分”されようとしている。
この映画は、
ヒーローの続編ではなく、
システムの副作用を描く外伝だ。
主人公は「強化されたが、不完全な男」
新たな主人公アーロン・クロスは、
CIAの別プログラム
〈アウトカム〉の被験者。
彼らは洗脳ではなく、
薬物による肉体・知能強化を受けている。
問題はここからだ。
- 能力は薬で維持される
- 薬を失えば、崩壊する
- プログラムが消されれば、存在も消される
クロスは、
優秀なエージェントである以前に、
依存症患者に近い立場にいる。
「証拠抹消」という名の大量殺人
ボーンの暴露により、
CIAは極秘計画を次々と廃棄する。
それは
書類の破棄ではなく、
人間の消去。
かつて国家のために使われた人間が、
都合が悪くなった瞬間、
静かに殺されていく。
この描写が示すのは、
裏切りではない。
最初から契約など存在しなかった現実だ。
エドワード・ノートン演じる「冷静な管理者」
作戦を指揮するバイア博士は、
感情をほとんど見せない。
彼は悪役というより、
「合理性の化身」。
- 成果が出ない計画は切る
- 証拠は残さない
- 感情はノイズ
彼にとって人間は、
プロジェクトの一部でしかない。
ここで描かれる恐怖は、
狂気ではなく、
完全に正気な判断だ。
科学者マーサ・シアリングの選択
クロスと行動を共にするのが、
プログラムに関わっていた科学者マーサ。
彼女は加害者側でありながら、
自分が作ったものの行き着く先に、
耐えきれなくなる。
この映画の良心は、
彼女の視点にある。
「知らなかった」では済まない。
でも、
「止める力」もほとんどない。
この無力感が、
映画全体に重くのしかかる。
アクションは派手、でも意味は重い
後半のカーチェイスや格闘は、
シリーズらしい迫力を持つ。
だが、
爽快感は薄い。
なぜなら、
クロスは逃げているだけだから。
目的は勝利ではなく、
生存。
彼の戦いは、
ヒーローのそれではなく、
実験動物の逃走に近い。
「洗脳」ではなく「依存」という新解釈
従来のボーンシリーズは、
記憶操作が中心だった。
本作はそこを一段深く掘る。
- 意志ではなく、化学物質
- 思想ではなく、代謝
- 忠誠ではなく、依存
つまり、
自由意志そのものが
薬で管理されていた。
これは、
現代的で、非常に冷たい恐怖だ。
タイトルが示す「遺産(レガシー)」
『ボーン・レガシー』の「遺産」とは、
ボーン本人ではない。
- 隠された計画
- 消された人間
- 修復不能なシステム
ジェイソン・ボーンは、
氷山の一角にすぎなかった。
この映画の評価が割れる理由
派手さやカタルシスを期待すると、
肩透かしを食らう。
だが、
この映画は意図的にそう作られている。
これは
「英雄譚」ではなく、
国家が作った装置の後始末の物語だからだ。
ボーンがいないからこそ見えるもの
『ボーン・レガシー』は、
シリーズで最も冷たい。
希望も、
明確な勝利もない。
あるのは、
生き延びた人間と、
まだ終わっていないシステム。
この世界で一番怖いのは、
暴走する個人ではなく、
止まらない仕組みそのもの。
それを静かに突きつける、
異色だが重要な一本だ。

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