※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
リバー・ランズ・スルー・イット
(A River Runs Through It)
作品データ
1992年|アメリカ(モンタナ州)|ドラマ
監督:ロバート・レッドフォード
出演:クレイグ・シェイファー、ブラッド・ピット、
トム・スケリット、エミリー・ロイド ほか
静かな語りから始まる、回想の物語
この映画は、とても静かに始まる。
派手な事件も、大きな転換点も、最初からは出てこない。
語り手は、成長した後のノーマン。
彼が「過去」を振り返るかたちで、物語は進んでいく。
舞台は20世紀初頭のモンタナ州。
雄大な自然と、冷たい川。
そこに暮らす一家の日常が、淡々と描かれる。
この時点で、この映画が
「何かが起こる映画」ではなく、
「流れていく時間を見る映画」だというのが、なんとなく分かる。
牧師の父と、正反対の兄弟
父親は厳格な長老派牧師。
信仰と規律を重んじる人で、
人生の教訓を説教と釣りを通して息子たちに教える。
兄ノーマンは、
真面目で理知的、父の価値観を受け入れるタイプ。
弟ポールは、
天才的なフライフィッシャーで、
自由奔放、危うさを抱えた人物。
この兄弟の対比が、
映画全体の軸になっている。
フライフィッシングという象徴
この映画で何度も出てくる釣りのシーン。
ただの趣味描写じゃない。
父は言う。
「釣りは芸術であり、祈りでもある」
川の流れを読むこと。
無理に逆らわないこと。
正確さと集中を保つこと。
それはそのまま、
父が考える「正しい生き方」そのもの。
ノーマンはその教えを理解し、
ポールは理解しながらも、守れない。
輝いて見える弟の危うさ
若きブラッド・ピット演じるポールは、
画面に映るたびに圧倒的な存在感がある。
釣りの腕は神がかっていて、
川と一体化しているように見える。
でも私生活は荒れていて、
酒、ギャンブル、トラブルが絶えない。
才能があるのに、
人生をうまく扱えない。
兄ノーマンは、
そんな弟を助けたいと思いながら、
どうしても踏み込めない。
助けたいのに、助けられないという距離
この映画の核心はここ。
家族だからこそ分かる苦しさ。
でも家族だからこそ、
どうにもならない距離。
父も母も兄も、
ポールを愛している。
けれど、
誰も彼の人生を代わりに生きることはできない。
この無力感が、
映画全体に静かに漂っている。
川は流れ続け、人生は分かれていく
物語が進むにつれ、
兄弟の人生は少しずつ分岐していく。
ノーマンは安定した道を選び、
ポールは相変わらず危うい場所に留まる。
やがて、
ポールはある暴力事件に巻き込まれ、
命を落とす。
それは劇的に描かれない。
あまりにもあっさり、
「そうなってしまった」という感じで訪れる。
何も解決しないまま、時間だけが進む
この映画には、
明確な答えも、救済もない。
なぜポールは変われなかったのか。
誰かが何かできたのか。
それは最後まで分からない。
ノーマンは大人になり、
父も母も亡くなり、
川だけが変わらず流れている。
タイトルの意味が、最後に残る
「A River Runs Through It」
川はすべてを貫いて流れている。
人生も、家族も、悲しみも、
説明のつかない出来事も。
川の流れのように、
止められず、戻れず、
ただ通り過ぎていく。
この映画は、
誰かを救う物語じゃない。
救えなかった記憶とともに、生きていく物語。
見終わったあと、
何かを言い切った気にはならない。
でも、
静かに胸の奥に残り続ける。
そんな映画。

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