※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
『マネーボール』
(Moneyball)
作品データ
2011年|アメリカ|ドラマ/スポーツ
監督:ベネット・ミラー
出演:ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、フィリップ・シーモア・ホフマン ほか
野球映画だけど、野球の話じゃない
『マネーボール』は一応、野球映画。
でも実際に描かれているのは、
ホームランの爽快感でも、劇的な逆転劇でもない。
テーマはもっと地味で、もっと鋭い。
「感情と経験に頼ってきた世界に、数字を持ち込むと何が起きるか」
その実験の記録みたいな映画。
舞台は2002年のMLB。
弱小球団・オークランド・アスレチックスは、
資金力で強豪に太刀打ちできない。
そこでGMのビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、
「勝ち方そのものを変える」決断をする。
“いい選手”って、誰が決めてる?
ビリーが出会うのが、
若き経済学オタクのピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)。
彼が持ち込んだのは、
当時まだ異端だったセイバーメトリクスという考え方。
スカウトたちは言う。
「こいつは顔がいい」「体格がいい」「雰囲気がある」
ピーターは言う。
「出塁率が高い。それだけで十分だ」
ヒットの“美しさ”や、
フォームの“格好良さ”ではなく、
どれだけ塁に出て、どれだけ点に繋がるか。
このズレが、
球団内部の衝突を生む。
全員から嫌われる改革
ビリーのやり方は、
ほぼ全員から反発される。
・スカウト陣からは「野球をわかってない」と言われ
・監督からは選手起用を無視され
・ファンからは負ければ即批判
しかも、序盤は普通に負ける。
この映画が面白いのは、
「正しいはずの理論」が
結果を出すまで、誰にも信じてもらえないところ。
数字は冷静だけど、
人間は感情で動く。
ビリー自身も、
理論を信じ切れずに
何度も揺らぐ。
ブラッド・ピットが演じる“疲れた天才”
ビリー・ビーンは、
カリスマ的な英雄じゃない。
むしろずっと苛立っていて、
人と距離を取り、
自分の選択に怯えている。
彼自身、
かつて「才能がある」と評価されながら
選手としては成功できなかった過去を持つ。
だからこそ、
「才能」という曖昧な言葉を
誰よりも信用していない。
娘と過ごす時間だけが、
彼の感情を少し柔らかくする。
この父親としての側面が、
映画をただの理論物語にしない。
勝ったのに、優勝しない映画
この映画、
実はワールドシリーズは描かれない。
アスレチックスは
驚異的な20連勝を記録するけど、
結局、優勝は逃す。
それでもこの物語は「成功」として語られる。
なぜなら、
ビリーたちが変えたのは
1シーズンの結果じゃなく、野球の考え方そのものだから。
後に、
資金力のある球団ですら
この理論を真似し始める。
これは「野球版・価値観の更新」
『マネーボール』は、
スポーツ映画というより、
・組織の中で
・少数派として
・常識と戦う人の話
に近い。
「それ、本当に正しいの?」
「昔からそうだから、で決めてない?」
そんな問いを、
静かに投げ続ける映画。
派手さはないけど、
観終わったあとに
自分の仕事や判断基準を
ちょっと疑いたくなる。
それが、この映画の一番の“勝利”かもしれない。

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