※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
イングロリアス・バスターズ
(Inglourious Basterds)
作品データ
2009年|アメリカ/ドイツ|戦争/クライム/ブラックコメディ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、
メラニー・ロラン、イーライ・ロス、ティル・シュヴァイガー ほか
これは“戦争映画”じゃない
『イングロリアス・バスターズ』は、
第二次世界大戦を舞台にしているけど、
史実を再現する気はほぼゼロ。
この映画がやっているのは、
映画で、歴史をぶん殴る
という乱暴で、
でもめちゃくちゃ映画的な行為。
戦争の悲惨さを「伝える」映画ではなく、
ナチスという存在を、娯楽として処刑する映画
冒頭20分ですべてが分かる
冒頭、フランスの農家で行われる長い会話劇。
ナチスのSS大佐ハンス・ランダ(クリストフ・ヴァルツ)が、
にこやかに、丁寧に、
でも確実に相手を追い詰めていく。
このシーンで、
この映画のルールは全部提示される。
- 暴力は、突然やってくる
- 会話こそが最大の武器
- 悪役が一番魅力的
ランダはこの映画そのものの化身みたいな存在だ。
バスターズのやり方は雑で残酷
ブラッド・ピット演じるアルド・レイン率いる
“バスターズ”は、
ナチスを捕まえては容赦なく殺す。
頭皮を剥ぎ、
スワスティカを額に刻む。
正義感? ほぼない。
あるのは、
ナチスは殺していい
という、
極端で雑なルールだけ。
ここでタランティーノは、
「正義」を一切美化しない。
ショシャナの復讐は“映画”そのもの
もう一つの軸が、
家族を殺されたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)
彼女は映画館を手に入れ、
ナチス高官が集まる上映会で
復讐を実行しようとする。
ここがこの映画の一番メタな部分。
- 映画館
- フィルム
- 炎
映画が、
現実の権力と歴史を焼き払う。
タランティーノは本気で言っている。
映画は、世界を変えられると。
歴史は、書き換えられる
クライマックスでは、
史実では生き残った人物たちが、
容赦なく殺される。
ヒトラーも、ゲッベルスも、
映画の中で蜂の巣にされる。
これは無知でも無礼でもない。
意図的な歴史改変だ。
現実では叶わなかった復讐を、
映画の中だけで完遂させる。
観客は笑い、
少しスッとする。
この“後ろめたさ込みのカタルシス”が、
この作品の核。
この映画が突きつける危うさ
ただし、この映画は単純に気持ちよく終わらない。
- 暴力は、やっぱり暴力
- 憎しみは、連鎖する
- 勝者の物語も、結局は物語
「ナチスだから殺していい」という論理は、
危うい。
でもタランティーノは、
その危うさを承知の上で、
あえて踏み込んでいる。
最高に不謹慎で、最高に映画的
『イングロリアス・バスターズ』は、
- 歴史映画でも
- 教訓映画でもない
映画で復讐する映画。
会話、暴力、音楽、演技、
全部が過剰で、自己主張が強い。
でも最後に残るのは、
この一言。
これが、俺の最高傑作だ
という、
タランティーノ自身のドヤ顔。
好みは分かれるけど、
刺さる人には一生忘れられない。
映画という暴力の、
最高に歪んだ使い方。

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