※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
(Once Upon a Time in… Hollywood)
作品データ
2019年|アメリカ|ドラマ/コメディ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、
マーゴット・ロビー ほか
これは「事件の映画」じゃなく、「時間の映画」
この映画は、
シャロン・テート事件を扱っている――
そう聞くと、重たい実話映画を想像するかもしれない。
でもタランティーノがやったのは、
事件そのものを描くことじゃない。
「もしも、あの時代が少しだけ違っていたら?」
という、映画オタクのための“おとぎ話”。
タイトルにある
Once Upon a Time…(むかしむかし)
は、完全に本気。
主役は、時代に取り残されかけた男たち
物語の中心は二人。
・落ち目のテレビスター
リック・ダルトン(ディカプリオ)
・そのスタント兼相棒
クリフ・ブース(ブラッド・ピット)
ハリウッドが
古いヒーロー像から
新しい映画文化へ移り変わる中、
彼らは、
自分の居場所を失いかけている。
特にリックは、
プライドと不安でぐちゃぐちゃ。
泣くし、怒るし、
自分に失望する。
このダサさが、
やたら人間的。
シャロン・テートは「象徴」としてそこにいる
マーゴット・ロビー演じる
シャロン・テートは、
物語を動かす存在じゃない。
彼女は、
ただ生きて、笑って、街を歩く。
それだけ。
でもそれが重要。
観客は知っている。
この幸福な日常の先に、
悲劇があることを。
だからこそ、
彼女が映画館で自分の出演作を
嬉しそうに観るシーンが、
異様に胸に刺さる。
映画の大半は、何も起きない
正直言うと、
この映画、かなり長い。
車で走る。
ラジオを聴く。
テレビ番組を見る。
西部劇を撮る。
でもこれは無駄じゃない。
1969年の空気、
ハリウッドの匂い、
時代の“終わりかけ”を
じっくり染み込ませる時間。
タランティーノは、
物語よりも
時代そのものを愛している。
そして、タランティーノは歴史を書き換える
終盤、
誰もが知っている“あの夜”がやってくる。
でも、
ここから先はタランティーノ流。
史実は、
映画の都合でぶち壊される。
暴力は誇張され、
悪は徹底的に笑いものにされる。
これは復讐でも、
告発でもない。
「映画なら、こうできたはずだ」という夢。
なぜ、こんな結末にしたのか
タランティーノは言っているように見える。
・映画は現実を変えられない
・でも、記憶の形は変えられる
この作品は、
失われたものへの鎮魂であり、
映画へのラブレター。
だからラストは、
静かで、優しい。
ハリウッドへの、個人的なおとぎ話
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、
スリリングな事件映画でも、
明快な成功譚でもない。
これは、
映画を信じすぎた男が作った、
映画のための童話。
観終わったあとに残るのは、
スッキリ感よりも、
少しの寂しさと、
なぜか温かい余韻。
ハマる人には深く刺さるし、
刺さらない人には
「何だった?」で終わる。
でもそれも含めて、
すごくタランティーノらしい一本。

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