アメリカン・ヒストリーX

※この記事には、作品の内容に触れる表現や
ネタバレを含む場合があります。 未視聴の方はご注意ください。




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アメリカン・ヒストリーX
American History X


作品データ

1998年|アメリカ|ドラマ
監督:トニー・ケイ
出演:エドワード・ノートン、エドワード・ファーロング、
ビヴァリー・ダンジェロ、ステイシー・キーチ ほか


憎しみは、どこから生まれるのか

物語は、白人至上主義のネオナチとして恐れられる男、
デレク・ヴィンヤードの姿から始まる。

剃り上げた頭、全身のタトゥー、
そして一切の迷いを感じさせない暴力。
彼は「信じている」のではない。
憎しみを正義として生きている。

その一方で、
弟ダニーは兄を崇拝し、
同じ思想へと引き寄せられていく。

映画はこの兄弟を軸に、
人種差別が「思想」ではなく
生活の中で連鎖していく感情であることを描き出す。


怒りは思想を装う

デレクが過激化した背景には、
黒人に殺された父親の存在がある。

その死は、
彼の中で単なる悲しみでは終わらない。
「奪われた」という感情が、
世界を敵と味方に分けていく。

ここで重要なのは、
彼が“論理的に”差別主義者になったわけではないこと。

怒り
→ 不安
→ 単純な答え

この流れの先に、
白人至上主義という
分かりやすい物語があっただけだ。


刑務所という逆転装置

デレクはある殺人事件をきっかけに、
刑務所へ送られる。

皮肉なことに、
彼が変わり始めるのは、
最も暴力的に見えるこの場所

  • 白人至上主義者たちの醜い内情
  • 黒人囚人との予想外の友情
  • 自分の思想が、誰も守っていないという事実

ここで映画は、
「正しい思想に出会って改心した」
という安易な構図を取らない。

デレクはただ、
自分が信じていた物語が、
あまりにも空っぽだったと気づく


弟ダニーが書く「宿題」

物語は、
ダニーが書くレポート
「American History X」を軸に進む。

それは兄の過去であり、
同時にアメリカ社会の断面でもある。

兄が変わっても、
弟はすでに危険な場所まで来ている。

憎しみは、
個人が抜け出しても、
簡単には止まらない。

ここで映画は冷酷だ。
「気づいたから救われる」
そんな保証は一切ない。


ラストが突きつける現実

物語の結末は、
観る側に強烈な後味を残す。

誰かが悪かった、
誰かが間違っていた、
そう簡単に整理できない。

差別は、
思想を捨てれば終わる問題ではない。
憎しみが連鎖する構造そのものが、
すでに暴力なのだと示される。

デレクは変われた。
でも、
世界は彼一人の都合では止まらない。


この映画が今も重い理由

『アメリカン・ヒストリーX』は、
差別主義者を「怪物」として描かない。

彼らは、
怒り、喪失、不安を抱えた
ごく普通の人間として描かれる。

だからこそ怖い。

この映画が問いかけるのは、
「なぜ彼らは憎むのか?」ではない。

「自分は、
同じ仕組みに足を踏み入れていないか?」

白黒の映像が象徴するのは、
過去ではなく、
世界を単純化したくなる人間の心そのものだ。

観終わったあと、
誰かを批判する前に、
自分の中の怒りを疑いたくなる。

そんな静かで、
逃げ場のない一本。

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